「リザの初恋は?」

猥談から始まり、結局純情染みた話になるのは私達の生活が余りにも世と離れているからか。
「好きなもの:恋の話」と言えてしまう程の友人、レベッカ・カタリナをはじめとした女の子たちはこの間講習に来た少佐が格好よかっただの、第三部隊の誰彼君がいいだの誰と誰はもう寝ただの、その話をめぐりめぐって最終的に行き着いたのは「初恋の君」。
軍人の卵とはいえ、元は普通の女の子であったのだからこのテの話から逃れる事は出来ないのだけど、男社会・極端に狭く深い世界で生きてる私達は普通の女の子よりも盛り上がってしまうのは仕方のない事なのかもしれない。
五、六人、輪になってカタリナから順に話していく。カタリナの初恋の君は毎回違うのはきっと話を被らせないように、つまらないと思わないようにという配慮と思い込むようにする。
今回の初恋は隣の家のお兄さん。お兄さんと会うために寒い中図書館に張り込んで、風邪を引いたというオチもつけてくれた。
次の女の子は幼馴染の男の子だったようだ。でも東部での乱戦に巻き込まれてしまって、離ればなれになったと切ない散り方だったけれど話の締めとしては完璧だった。
三番目が私だった。前二人が完璧だったから、プレッシャーが大きい。
「リザは?」
「リザからそういう話、聞いた事ないわね」
レベッカは前屈みになりながら、私の顔を覗き込む。確かにレベッカにすらこの話はしたことがない。

「私は……年上の人だったわよ。初恋自体結構遅かった」

でしょうねー、と二、三人の女の子が同意する。自分で言うのも何だけど、年下好みではないと思う。自分で引っ張っていくタイプでは決してないから、年上の人に着いていく方が向いていると思うし。結婚したらしたで亭主関白で、夫に振り回されるかもしれない。気を付けなければ。
「優しくて余裕のある人だったわよ。以上」
部屋の中にこだまするブーイング。女子だから声がよく響く。いい加減、寮長に怒られそう。
「もうちょっとあるでしょうよ!それからどうなったとか、振られた、とか」
「実はファーストキスの相手、とか!」

年上のひと、父の弟子のひと、ひとりぼっちになってしまった私に道を与えてくれたひと、私が道を与えたひと。
話の締めとしては前二人とは比べものにならないくらい素晴らしいけれど。

「どうにもなってないわよ」
嘘はついてない。「まだ」どうにもなってないのは本当の話だもの。
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