「監査の方に言われたんです、健康診断の時」
「なんて」
「マスタング大佐とどういう関係だって」
「ふーん。聞かれ慣れているだろう、そんな事」
「まぁ聞かないのなんてアームストロング少佐くらいですから。 でもあんな公衆の面前で、というかまったく関係ない時に聞くのはどうかと思うのです。しかも 監査の方が。興味本位と監査のため、両方の意味合いで取れてしまうのはいささか気分が悪いです」
「どっちならいいんだい」
「まだ興味本位の方がましですね。冗談として笑い飛ばせばいいだけの話ですから。それに、 近くにいたロス少尉が気まずそうで。申し訳ない気持ちになってしまいました」
「そうだろうな」
「あの人は本当、困ったものです」
「珍しいな、君がそんなことを言うなんて」
「それでも仕事をなさらない大佐よりは寸分ですがまともだとは思いますけど」
「あっそう」
「その上、他の女性の方とデートした足でうちにやってくる人よりは全然いいですけど」
「……ところで君はなんと答えたんだい」
「勿論、恋人同士ではありません、と答えました。それ以外ないでしょう」
「それはそれで」
「だってそうじゃないですか。嘘偽りなく、私達は恋人同士ではないですから」
「まぁそれはそうだけど」
「そう申し上げたらあの監査員…わかります?多い量の髪の毛後ろで束ねて、背の小さい…」
「あー…あのマダムか」
「マダムなんて言ったら怒られますよ、彼女独身なんですから。で、彼女、私に、雨の日も無能なら あっちの方も無能そうねって」
「君たちは男のいないところでは猥談を繰り広げているのか」
「いいえ。まったく」
「私はそんな事を影で言われているのか。他にもそう言っている者がいるのか」
「……」
「無言はやめてくれないか」
「まぁそれは置いといてよろしいでしょうか、大佐。」
「いや、その話は置いとけないだろう。大切な話だ」
「で、話を戻しますよ。だから私、言ったんです。無能かどうか確かめられるほど、魅力のある女性に なられた方がいいんじゃないですかね、こんな場所で詮索するより、って」
「言うなぁ、君も」
「だって無能男に抱かれてるなんて思われたくないじゃないですか」
「すごいね、君ホント」
「恐れ入ります」
「いや、褒めちゃいないのだけどさ、それを言ったら暗に君と私はそういう関係だと言うのをバラしちゃいないかい」
「恋人ではないのでその辺はあまり」
「いや中尉、そこは気にしよう。むしろしてくれ」
「身体だけの関係なら、あらあらホークアイ中尉はマスタング大佐に騙されちゃっているのね、可哀そうにって 思うだけで済むと思うんですよ」
「心外だな、何故私が悪者になる」
「人徳です」
「あっそう」
「でも恋人なら、私は貴方の副官ではいられなくなってしまいます」
「…何回か確認しているけど、君は私の恋人と副官ではどちらを」
「副官です」
「うん、知ってる」
「大佐」
「何」
「もし監査から何か言われたらすみません」
「あー、別にそこは大した問題じゃないし。フォローはするけど」
「やけに嬉しそうですね」
「君に頼られるなんてそうそうあるもんじゃないからね」
「くだらないことですけど」
「くだらなくてもいいよ」
「じゃあ明日、ハヤテ号のドッグフード20キログラム買っといて頂けますでしょうか。お金はお渡ししますので」
「……」
「嬉しそうじゃないですね」
「それは頼る、ではなくコキ使うっていうんだ中尉、覚えておきたまえ」
「了解しました」
「……じゃあひとつ、いいことを教えてあげよう」
「結構です」
「聞きたまえ」
「ロクな事ではないのが丸わかりです」
「いいからいいから」
「……なんですか」
「次言われたらこういえばいいさ。ベッドの上だと私の方が動けなくて無能なんですよって、なにその顔」
「聞かなきゃよかったなって顔です」
「至って私はまじめだぞ」
「大佐が言うと色々と生々しいです」
「君だって生々しい」
「そうですかね、私は事実を述べたまでですし」
「おや、君が私をあっちの方も有能だと褒めるとは珍しい」
「褒めてません、保身のためです。有能だと確定した記憶はありませんし」
「じゃあ今から確かめるかい?って、またその顔」
「失礼しました」
「待て待て、悪ふざけはここまでにしよう。もうそろそろ限界だぞ」
「そうですね、明日は早番ですしとっとと終わらせましょう」
「ほんとムードないな、君は」
「恐れ入ります」
「だから褒めてないって」
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