ああ、確かにあの時私は言ったよ!それは覚えてる、覚えてるからこそ悔しいし、腹立つ!
今日のカレンダーの日付は11月3日。
それなのに私はソファーの上でゴロゴロと朝から今の今まで酢昆布を食べ続けているのだから、傍から見たら悲しい女だ。
別に夕方になれば銀ちゃん達がバーさんの店で誕生日パーティをやってくれるから気にしてなんかいない。
アイツの出張期間と私の誕生期間が被ったのもどうでもいい。
私は「誕生日に日に恋人の私といっしょに過ごしてくれないなんて!ひどい最低!!仕事と私どっちが大事なのよ!!」
なんていう馬鹿な女共と一緒にしないでほしい。
仕事が優先なのは社会人としては当たり前で、私だって仕事とデートなら仕事を優先するし。
「出張前に祝っとくかィ?」と向こうから言ってくれたのは、正直嬉しかった。
期待なんて寸分足りともしてなかったし、何せ私が来月誕生日だと匂わせないようにしていた。
そんな中で、デートしてすぐにそう提案してくれたのが付き合って5年目にして出てきたのはアイツの成長とみていい。
問題はここからだ。
「じゃあ誕生日何がほしい?」
毎年アイツのくれるものはいいものとわるいものの交互だった。
良い時にはかわいいアクセサリー、悪趣味な時にはGからはじまる虫のフィギュアだったりする。
去年はゴリの使いかけの携帯ストラップ(しかも姉御の名前が彫ってある)だったので、今年は絶対にいいもののはず!
、と私は踏んで「酢昆布一年分とかでいいけど?」と冗談で言った。
そしたらあの男、本当に酢昆布一年分よこしやがった。パトカーのトランクに箱詰めものを。
しかも一日50個計算で365日分。
「賞味期限切れちまうかもなァ」
あっけらかんと言ったあと、私は脱力した。確かに私は酢昆布を愛してるよ。一瞬目を眩ませたのは事実だよ。
でもな、そんなんは誰からでも貰えるし、オメーは私の恋人だろうが!!
って言ってやりたくなったけど、5年という歳月は随分と私を大人にしてしまったようで怒る気力がなくなってしまった。
そして誕生日と称してケーキ食べて遊び倒した後、万時屋に私と酢昆布(箱)を下して翌日そのまま西へ出張にいった。
悔しくてその日から私は酢昆布をアイツが出張から帰ってくる前に食べ切ってしまおうと思った。
そして今日、残り6個にまで減った。誕生日になんてキリがいいんだろう。
「っていうかマジ空気読めよナ」
「空気読めないのはお前の方。せっかくメシ作ってやったのに酢昆布食いやがって」
通り過ぎざまに銀ちゃんは私に言う。
「お前が酢昆布食べたいって言ったんだから、仕方ねえだろ。むしろ沖田君が可哀想」
「でもさー、それでももっと考えろって話アル。乙女心ちーっとも理解してないヨ!」
「腹そんなに膨らませて、乙女も糞もあるか。乙女って言葉辞書ひいてこい、辞書」
銀ちゃんにはわからないんだ。乙女がどんなに複雑怪奇な生き物か。だって私にだって分からないもの、乙女。
「そろそろ時間だからな、酢昆布はパーティの後にしろよ」
銀ちゃんはそう言ってトイレに向かった。時間をみたらもう4時過ぎてる。
もうひと箱食べたらキリよく残り5個になるのでテーブルの上に置いてある酢昆布に手を伸ばす。
寝ながら酢昆布を適当に取ると、それはすでに開封済みだった。ビニールが剥がされていた。
「銀ちゃん、いっこ食いやがったな…」
昔の私なら怒っていたけど、今なら平気。むしろちょっぴりありがたい。
食べかけかもしれない、と念のため箱を開けると顔の上に何か落ちてきて少しびっくりしてしまった。
それは唇にあるらしくひんやりと冷たい。
唇の上に乗っているものに恐る恐る手を伸ばすと、堅い。それが見えるところまで持っていくと。
「うおーい、神楽ァ!新八が準備できたってよ!……おい、かーぐーらー!先行ってるからな!」
銀ちゃんが引き戸を閉めて、階段を下る足音がする。
それを確認した私はソファーにぐるりとうつ伏せになって足をばたつかせた後、また仰向けになって丸くて金色を入ってきた夕陽にかざす。やたらに煌めいてまぶしくて、困惑する。
「……どの指にしたらいいかわかんないアル」