シスターってこっちが唖然としちゃうくらい醜いわよねぇ、マリアがしみじみ いうとシスターは血を大噴射させて膝を突く。
「なぁに?もうギブ?つまらない人ね」
 その一言は更に追い打ちをかけ、膝で折角耐えていた身体をついに肘で突くこととなってしまった。 シスターは下を向き、マリアの仕打ちに淡々と耐えた。その表情はベールに隠れてわからない。
「ねぇ」
 というとシスターは次の口撃に身構え、身体を固くした。一呼吸置いて、なんだ、と低い声で 返答する。
「あらやだ、そんなに怯えなくてもいいのよ?」
「こうでもしないと俺は死ぬ」
「大丈夫よ、あなた死なないから」
 金星に行くまでは。というとそうだな、といって固くしていた身体を解いた。
 草や花を濁った赤に染めてしまった事を後悔しつつ、マリアは面白くない、と思った。

 シスターが私の態度で、言葉で、傷つく姿が見たい。愛に溺れたその顔がいとおしいの。

 ねぇ、と先程と同じ抑揚で呼ぶと次は油断しているのか身体をハリネズミのように固く 尖らせることはなかった。返答の代わりにシスターは顔を上げた。その顔は 古傷からぽつぽつと流れる血にまみれ、瞳孔は開ききり、浅い呼吸でマリアを仰ぎ見る。

 そう、その顔が見たいのよ。

 マリアはシスターのその顔を数秒見つめて、そしてゆっくりと笑顔を作ってしゃがみ、シスターの ベールを外す。金髪がはらりと顔にかかって、髪の毛が血の色に染まる。 マリアの行動の真意がまるで読み取れず困惑した表情をシスターは浮かべた。 その顔に満足したマリアはずっと思っていた言葉をようやく口にする。
「女装、やめたら?みにくいから」
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